毎月5日と20日の2回、テーマごとに3冊を選ぶコーナーです。

 

 

眠りをめぐる本棚

オテル モル (集英社文庫)            『オテル モル』

 

 日没から日の出までしか営業しない、快眠を提供する会員制ホテル『オテル モル』を舞台にした小説です。なんですが、この本の魅力を説明するのがすごく難しいんですよね。ひとつ思うのは、この本のストーリーだけ残して他の作者が書いても全然おもしろくないだろうってことです。

 これは個人的な感想なんですけど、作者である栗田有起さんの魅力は「これは何々である」といったふうな固まった考えがないところだと思います。ただ穏やかなだけじゃない、栗田さんのゆるやかな世界は一度体験しておくべきですよ。たぶん。

 

快適睡眠のすすめ (岩波新書)           『快適睡眠のすすめ』

 

 快い眠りは健康で充実した生活の必要条件だ.しかし,睡眠不満を訴える人はひじょうに多い.なぜ不十分になるのか,快適睡眠のために何をすべきなのか.眠気のリズムを知り,それにうまく合わせることはもちろん,昼間の過ごし方も大切だ.リズムを乱しておこる障害や効果抜群の昼寝とおやつ,サバイバル睡眠法も紹介。

 だそうです。

 睡眠関連の新書ってすごくたくさん出ているんですが、眠りについての知識だけでなく具体的な眠れないときの睡眠対策も書かれているのですごくおすすめです。

 

白河夜船 (新潮文庫)             『白河夜船』

 

 真夜中にひとりでいると、静かさと暗さと不安と安心がまとめてやってくることがあります。いちばん不安定な時期は、いつでも夜に、自分ひとりで解決してきたからかもしれません。

 吉本ばななさんの著作の中でも『キッチン』『TUGUMI』とこの本の3冊は私にとっても特別な作品になっています。『夜』をめぐる三つの物語にひたってみてください。

 

水をめぐる本棚

水辺にて―on the water/off the water             『水辺にて』

 

 『春になったら苺を摘みに』や『西の魔女が死んだ』でおなじみの梨木香歩さんのエッセイ集です。

 趣味としてはじめたカヤックにまつわるエッセイから、自在に広がってゆく思考の跡が読んでいておもしろいですし、なによりこちらも一緒に考えさせられる訴求力のある言葉が至るところに散りばめられています。

 

水ビジネス 110兆円水市場の攻防 (角川oneテーマ21)    『水ビジネス 110兆円水市場の攻防』

 

 水資源の問題は近頃テレビや雑誌など本当によく見かけるようになりました。水自体の輸入量とは別に、例えば牛丼に使う牛肉を日本で育てずに輸入することは、牛一頭を育てるのに必要な大量の水を輸入しているのと同じことだという考え方です。

 著者が水ビジネスに関わっている人らしく、いわゆるエコや食料問題とは別の角度から語られているのが特徴です。

 

海底牧場 (ハヤカワ文庫SF)             『海底牧場』

 

 『2001年宇宙の旅』で有名な、アーサー・C・クラークの傑作海洋SFです。人類の食料の一割以上を、海底に放牧した鯨からとっているという設定なんですが、なにより物語として、ドラマとしてとてもよく出来ています。

 宇宙ものと比べて派手ではないですが、現在の状況と照らし合わせながら読んでみてもおもしろいと思います。

 

続いてゆくことの本棚

花鳥風月の科学 (中公文庫)             『花鳥風月の科学』   

 

 「花鳥風月」に代表される日本文化の重要な十のキーワードをとりあげ、歴史・文学・科学などさまざまな角度から分析、その底流にひそむ「日本的なるもの」の姿を抉出させる、松岡正剛さんの日本文化論です。文化とはなにかと問われたら、私は「続いてきたもの」だと答えます。何百年も前から日本という風土で育まれてきた歴史を、普段思想書なんて読まない私みたいな初心者にもわかりやすく書いてくれています。

 松岡正剛って誰? というひとにこそ読んでみてもらいたいです。

 

百億の昼と千億の夜 (ハヤカワ文庫JA)            『百億の昼と千億の夜』

 

 萩尾望都さんのマンガの方が有名だとは思いますが、その原作である光瀬龍さんのSF小説です。アトランティスから始まり、時間を自在に越えていくこの物語は国内SFとして世界に誇れるものだと思います。

 万が一思いついたとしても書こうだなんて常人では思わないような大風呂敷なストーリーを、マンガにしようと思った萩尾望都さんもどうかしてるぐらい凄い、と読後思ったのを覚えています。

 

茗荷谷の猫             『茗荷谷の猫』      

 

 幕末の江戸から昭和まで、それぞれの時代ごとに完結している短編がいくつも収録されています。とてもか細い糸ですべての短編は繋がっているのだけれど、登場人物は当たり前のことながらそのことは知りません。今を生きることしか私たちにはできないからです。

 けれど読者は知ることができます。

 時間を越えてつながってゆく、いくつもの想いを。

 小説を読む喜びの確かなかたちが、この本には詰まっていると思います。

 

 

 

他人と付き合うことの本棚

ヤサシイワタシ(2)<完> (アフタヌーンKC) ヤサシイワタシ(1) (アフタヌーンKC)      『ヤサシイワタシ』

 

 大学生の主人公が過ごす、どこにでもある、誰もが経験する恋愛の物語。『おおきく振りかぶって』で一気にメジャー作家となったひぐちアサさんの代表作です。

 家族以外の他人と長く共に過ごすことで生まれる、距離と言葉と感情が読んでいてつらいくらいに生々しく描かれています。

 

ホリー・ガーデン (新潮文庫)              『ホリーガーデン』

 

 年をとればとるほど、ともだちってありがたいものだなと思うようになりました。昔からのともだちならなおさらです。

 この本は果歩と静枝という二人の女性の物語です。

 古くからの友人であること。

 お互いのことをよく知っていること。

 お互いのことをよく知りすぎていること。

 だから二人はいわゆる「仲良し」な感じではありません。嫌なことを言ったり言われたり、したりされたり、それでもともだちであり続けること。それはすごくありがたいことだと思うのです。

 

ブルーもしくはブルー (角川文庫)             『ブルー、もしくはブルー』

 

 広告代理店勤務のスマートな男と結婚し、東京で暮らす佐々木蒼子。六回目の結婚記念日は年下の恋人と旅行中…そんな蒼子が自分のそっくり「蒼子B」と出く わした。彼女は過去の記憶をすっかり共有し、昔の恋人河見と結婚して、真面目な主婦生活を送っていた。全く性格の違う蒼子Aと蒼子B。ある日、二人は入れ 替わることを決意した。

 というあらすじなんですが、結婚という他人と家族になる制度の喜びと苦痛がこの本には描かれています。あと、作者の山本文緒さんはほんとにストーリーテリングがうまい。ひとが死ななくても、事件が起きなくても、ページをめくる手を止まらなくすることはできるんですよね。

 

もののけたちの本棚

家守綺譚 (新潮文庫)              『家守綺譚』

 

 ほんの百年ほど前の日本を舞台にした、静かな静かな、自然とひととの暮らしの物語です。

 百日紅の花が喋ったり、河童が出てきたり、ちょっと不思議な物語がたくさん収録されています。

 『村田エフェンディ滞土録』の主人公・村田もほんのちょびっと登場しますよ。

 

図説 日本妖怪大全 (講談社プラスアルファ文庫)              『日本妖怪大全』

 

 イラストと詳細な解説でつづられた、水木しげるさんによる妖怪図鑑。なんとその数426だそうです。

 ぱらぱらとめくっているだけで楽しいのでおすすめですよ。

 

 

 

百物語 (新潮文庫)               『百物語』

 

 生涯江戸という時代を愛した、杉浦日向子さんによる、江戸を舞台にした百の怪談です。

 悲鳴をあげたり背筋が凍るようなものではなく、ほんの少し涼しくなるような、日常とつながる怪談が百個収録されています。この町で暮らしてみたいな、と思わせられるそんな怪談集だと思います。

 

昭和という時代の本棚

マイナス・ゼロ 広瀬正・小説全集・1 (集英社文庫)              『マイナスゼロ』

 

 星新一さんと共に日本SF創成期を支えた、広瀬正さんのタイムトラベルものの傑作です。なによりも驚くのは、戦後まもなく・戦中の日本の描写の細かさでしょう。おそらく今の作家が書こうと思っても資料の点からも当時を知るひとがもういないことからも、ここまでいきいきとした風景は描けないと思います。

 タイムトラベルのSFとしてだけでなく、私たちの親の世代が生まれた昭和という時代を体験できる貴重な本ではないでしょうか。

 

音のない記憶 ろうあの写真家 井上孝治 (角川ソフィア文庫)            『音のない記憶』

 

 聴覚障害者である井上孝治さんの、写真に彩られた人生を骨太に描いたノンフィクションです。

 カメラを向けられても無防備な笑顔をひとびとが見せてくれた時代。昭和に生きる市井のひとびとを撮りつづけた、一人のアマチュア写真家の姿を知ることができる。読書の喜びってこういうことなんじゃないかと思います。

 

 

 

それでも、日本人は「戦争」を選んだ        『それでも、日本人は戦争を選んだ』

 

 かつて、普通のよき日本人が「もう戦争しかない」と思った。
 世界最高の頭脳たちが「やむなし」と決断した。

 どうして。

 どうして私たちは戦争を選んだのか。

 どうして世界中で戦争は選択され続けているのか。

 著者の高校生への講義を一冊にまとめた本なので、とても読みやすいです。

 

 

風に吹かれての本棚

ボブ・ディラン自伝            『ボブ・ディラン自伝』

 

 生まれてから、もしくはデビューしてからを順に追っていくタイプではなく、ちょっと前に公開された映画『500日のサマー』のように時系列がバラバラで語られていくディランの自伝です。

 ボブ・ディランってなにがずるいって、音楽だけじゃなくて見た目が異様にかっこいいですよね。ずるい。

 

 

アヒルと鴨のコインロッカー (創元推理文庫)           『アヒルと鴨のコインロッカー』

 

 主人公が「風に吹かれて」を口ずさむところから始まる、出会いと別れの物語です。

 伊坂幸太郎さんの著作の中でもミステリー的な要素と小説としての楽しみのバランスがよくとれている作品だと思うので、私のようにミステリーはちょっと苦手、という方にもおすすめですよ。

 

みうらじゅんマガジンVol.1 ディランがロック     『みうらじゅんマガジン ディランがロック』

 

 現在3号まで発売されている、『みうらじゅんマガジン』の第1号。タイトルは『ディランがロック』です。ロックの中にディランがいるんじゃなくて、ディランがロックなんだ、というみうらさんの言葉が聞こえてくるようです。ようですが、私の妄想かもしれないので違っていたらすいません。

 ボブ・ディラン好きとして知られるみうらさんの、ディランへの愛がつまった雑誌ですよ。

 

他者の気持ちを想像することの本棚

ぼくは落ち着きがない          『ぼくは落ち着きがない』

 

 高校の図書部を舞台にした高校生たちの物語なのですが、描かれているのは、「他人の気持ちがわかる」ことへの不信感、そして「言葉」と「気持ち」のずれのような気がしています。

 私たちはよく勝手に誰かの気持ちを決めつけるけれど、本当に知る方法は「聞く」ことしかないのではないかと思うのです。

 「私にはわからないこと」と「そのことを知りたいと思っていること」を相手に伝えること。そのことでしか、ひとの気持ちを知ることはできないのではないかと思うのです。

 

ふたりのハッピーメニュー                           『ふたりのハッピーメニュー』

 

 誰かの為に料理をつくること。そのひとのことを考えながら。

 『食べちゃえ! 食べちゃお! 』のという野中柊さんの本の解説でケンタロウさんは「大切なひととおいしいものを食べる。それ以上に大切なことなんてない(ものすごくうろ覚えです)」というようなことを書いていたけれど、本当にそうだと私も思います。

 レシピの分量もすべて二人分で書かれているので、作りやすいですよ。

 

差別をしよう!(14歳の世渡り術)                『差別をしよう』

 

 友達に嫌われないための平等なんておかしい。だったら、差別して差別されて、そこから個性を探せばイイ。身体障害者芸人と自ら名乗る・ホーキング青山さんの著書です。

 ひとの気持ちを想像しよう、という小学校から言われてきたスローガンに疑問を抱いたのは、ちょっとした事情で「色盲」について調べたときでした。私たちはどこまで想像することができるのか。それがどうしてもわからなかったからです。

 「差別」をしよう、というタイトルが、本を読み終わる頃には違う意味をもって感じられると思います。

 

父と子の本棚

 

プリンセス・トヨトミ『5月末日木曜日、大阪全停止』

 という帯のコピーだけでおもしろさが伝わると思うんですが、エンターテイメントとしてかなりよく出来ています。

 でもこの本の魅力は荒唐無稽なストーリーを無理矢理ねじふせて納得させてしまうほどの、『父と子』をめぐる言葉たちではないかと思います。

 大人になるにつれ離れてゆく父との関係と想いを、ここまでおもしろく語った小説は他に思いつきません。万城目 学 さんの現時点での最高傑作ではないでしょうか。

 

 

手塚治虫 知られざる天才の苦悩 (アスキー新書 111)手塚治虫という偉大な、あまりに偉大な父親をもった手塚眞さんによる、息子からみた漫画家「手塚治虫」の人生。

 今も手塚プロダクションを経営している、手塚眞さんというひとには興味があります。若い頃はきっと父親に関わった仕事をすることへの葛藤もあったのではないでしょうか。そこらへんも含めて、とても貴重な本だと思います。

 

 

ありがとう 下  ビッグコミックス ワイド版

ありがとう 上 (ビッグコミックス ワイド版) 「家族とはなにか」を問い続けた、父親をめぐる山本直樹さんの傑作漫画です。

 オブラートにまるで包まれていない暴力とセックスにまみれた物語ですが、いわゆるハッピーエンドも救いもまるで用意されていませんが、それでも私はこの漫画はなによりも家族について考え続けた素晴らしいホームドラマだと思っています。

 残念なことにすべて品切れになっているので、amazonの中古品からどうぞ。