毎月5日と20日の2回、テーマごとに3冊を選ぶコーナーです。
『立ち上がるのが嫌になってしまったとき』の本棚
「自殺者を説得できなければこのゲームは終わらない」
とあるゲームを見つけた男とその製作者を巡る表題作『説得ゲーム』や、タイムマシンの開発に成功した女科学者が過去の自分にたった一言だけ伝えに行く、『タイムマシン』を含めた、短編マンガ集です。
生きていくことに疲れたとき、私たちは自由で、自分で死ぬことすらできるのだと気づいたとき。
それでも続けてゆく理由はなんなのか。
そもそも、そんなものはあるのか。
ともすれば陳腐になりがちなテーマを扱っても、ひとつひとつの台詞に強度があるのは、作者が戸田誠二さんだからこそなのだと思います。
キャバレーやヘルスセンターでのドサ廻り営業で歌い続ける女性シンガーの物語です。
おひねりも貴重な収入源となるその日暮らしの中、夢だとかなんだとかに振り回されることなく、歌い続ける主人公。歌手であること、歌うことで生活していることへの誇り。
うっかりするとさらっと読み飛ばしてしまいそうなほど読みやすい文章で、しなやかに動く登場人物を追いかけているだけで、すこしだけ元気をわけてもらえたような気になります。
末永直海さんは傑作も多く好きな作家のひとりなのですが、この小説も版元品切れになっているようで残念です。よろしければマーケットプレイスからどうぞ。
『夕凪の街 桜の国』で一躍有名になった、こうの史代さんの作品です。
甲斐性なしの荘介さんと主人公の夫婦の生活をのんびりと描いたマンガで、個人的な話をすると、こうのさんのマンガの中でこれが一番好きだったりもします。
うまく言えないんですが、自分以外の誰かに対する愛情のかけ方というか、眼差しのやさしさというか、このマンガにつまっているもののほとんどが、自分に欠けているなあと自覚していて、それでこのマンガが特別なものになっているんだと思います。
『天才』の本棚
生まれつきひとよりも一本多い指のせいなのかそうでないのか、並外れた頭脳と手先の器用さをもった男の物語。
薬だとか、金だとか、精神科医と正面きって渡り合える頭脳だとか、そんなことは彼にとってもどうでもよかったんでしょう。
もう言われ尽くされ、手垢がつきまくった表現だけれど、好きなひとと一緒にいられればよかったのでしょう。
エンターテイメントとして本当におすすめできる小説ですが、ひとつだけ文句を。あの、帯とかに書いてある『仰天のラスト!!』(うろ覚え)みたいな煽り文はいらない。いらないですよ、ヴィレッジブックスさん。
真賀田四季 天才科学者
と職業みたいに書かれていることで有名な、森博嗣さんのデビューミステリー。
すべての時代を、
すべての歴史を、
彼女は通り抜けた、
あっという間に。
別の本で、真賀田四季について書かれた帯の文章です。
天才という言葉を、ここまではっきりしたイメージで伝えられたのはこの本が初めてでした。
1999年まで、つまりつい最近まで実際に行われていた、ノーベル賞受賞者の精子から天才をつくりだそうというブロジェクトに迫ったノンフィクション。
読んでいて、不愉快になります。
実際に生まれた『優生』な200人の子供たち。
大人たちの吐き気がするほどの偏見と差別。
読中に感じる不愉快さは、私たちの住む世界がしっかり切り取られている証拠だと思います。自分の子は、優秀な子であってほしい。親のその願いを、差別だと言い切ることができるのかどうか。
読みながらぼんやりとでもいいので、考えてみてください。
『孤独について』の本棚
表題作である『キリマンジャロの雪』は孤独について書かれた物語だと思っています。
って実はこれ、『バナナフィッシュ』ってマンガでブランカが言ってた台詞なんですけどね。昔はよくわかりませんでしたが、数年前に読み返したときに改めて実感しました。
悲観論とかそういうことではなく、良くも悪くもなく、ひとは一人で生まれて一人で死んでゆくんだ、ということ。
これは孤独について書かれた物語です。
孤独であること。
そのことを受けいれて暮らすこと。
死んでしまった、唯一心を許していた主人公の親友の女性の存在が、物語の中ではほとんど語られないにも関わらず、物語全体に大きくのしかかっている。
そんな気がしました。
自己啓発本? とタイトルをみた瞬間に遠ざかった皆さん、気持ちはわかりますが少し戻ってきてください。
内容的には著者の体験談を中心にした、孤独や不安をなくすのではなく、抱えて生きていく方法について書かれた、あ、待って待って、気持ちはわかりますが帰らないでください。
私もまず普段はこういう本は読まないんですが、結局は作者に対する信頼度の問題なんだと思います。
作者である鴻上尚史さんは演劇界という狭い世界では演出家として有名人なんですが、知らない人には、雑誌『SPA』のうしろのほうで連載している『ドンキホーテのペディキュア』の作者と言ったほうがわかりやすいでしょうか。
芝居を通して言葉と向かい合い続けてきた著者の言葉に少しだけ耳を傾けてみてください。
『夏の寝苦しい夜に読みたい』の本棚
『ティファニーで朝食を』『冷血』の作者・カポーティの短編集です。
短編集なので、眠れそうになったら中断しやすいですし、なによりカポーティの作品の中では一番のおすすめです。
全編に流れる「孤独」さが夜にとても合っていると思います。個人的には『ミリアム』って短編が凄く印象的でした。
私にとっては、初めて川内さんの写真にふれた本でした。
タイトルは花火ですが、花火そのものよりも花火をめぐる私たちの生活にピントがあっているような、そんな写真の数々が収録されています。
特に後半にある、花火をバックに夜道を走る幼い姉妹の写真は初めて見たとき少し泣きそうになった記憶があります。
十二国記シリーズで有名な小野不由美さんの大長編。小野さんもあとがきだったか、別の媒体だったかで(すいません忘れました)書いてましたが、スティーブン・キングの『呪われた町 』にオマージュをささげた作品です。
もし、日本の村に吸血鬼が現れたら。
丹念な描写で恐怖を盛り上げていく作品なので、人によっては途中でつらく感じるかもしれません。ただ、ラストの五巻目の展開を読むためだけでも読み通す価値があると思います。
次の日学校も仕事もない、眠れない夜に一気に次の日にもまたがって読みきってほしいです。怖いです。
『なにかを強く好きでいること』の本棚
「田宮の夢と重ならない夢なんて、そんなの夢じゃない(うろおぼえ)」
という甲本ヒロトさんのブックレビューを雑誌『ダ・ヴィンチ』で読んだのが手にしたきっかけでした。まあ正直、模型に興味はほとんどなかったので。
読んで模型が好きになりました、ってことはありませんが、田宮さんのことは好きになりました。
模型が好き、という気持ち。
それだけが、全部を動かすエネルギーになること。
この本、中学とか高校の教科書にするべきだと思います。
本一冊丸々かけて、ゆっくり失恋してゆく物語です。タイトルに惹かれて、初めて手に取った
よく「登場人物に生活感がない」みたいな批判を見聞きするけれど、生活感なんて小説に求めてないんですよね。少なくとも私は。
言葉のひとつひとつがしっかり選びぬかれている、と感じさせてくれる文章を、紅茶とかコーヒーとか飲みながらゆっくり味わってほしいです。
あっ、珍しく映画も傑作です。是非どうぞ。
大人気コミック『ジョジョの奇妙な冒険・第四部』の完全オリジナルノベライズ。作者は乙一さん。おもしろくないわけがありません。
本当に本当に、作者である乙一さんはジョジョが好きなんでしょう。最初から最後まで、ジョジョへの愛情に満ち満ちています。ただ一つだけ、おそらくは私だけでなくたくさんの人たちに愛されていた康一くんの『エコーズ』が全然活躍してくれなくて、ずっと気をもんでいたんですが、小説のほぼラストでのエコーズの使い方を読んで、「ほんとに乙一さん、ジョジョ好きなんだな」と改めて思いました。
これを書くために数年間小説の依頼を断りまくったと噂がありましたが、それも納得の完成度です。
『さびしくはない。誰もさびしくはないのだ。この世に生きている人は、一人残らず』
登場人物のこの独白が、今も頭に残っています。
『働かない』の本棚
角田光代さんの初期の作品には、定職をもたず、日本で、もしくはアジアでふわふわと生活する人たちを描いたものが多い。
スケッチみたいだな、と思ったことを覚えている。
たぶん著者は小説の登場人物たちのことが気になってしょうがなくて、ずっと見ていたんだと思う。
スケッチだから別にラストのどんでん返しはないし、ストーリーの起伏もほとんどない。感動の涙もない。読んでいる間ずっとやってくるのは、どうしようもない不安感で、著者はその不安を打ち消してくれるようなラストは用意してくれていない。
働かないことは、お金がないことだ。
お金がないことは、不安だ。
そしてたぶん、不安と自由はほぼイコールなのだろう。
『THE3名様』の石原まこちんのエッセイ集。
石原まこちんは信頼できる漫画家だ。
こんなこと書くと怒られてしまいそうだけれど、コミックだけでなく、エッセイまでダメな感じが出まくっている。あと、顔もほんとにファミレスでだべってそうだし。
『THE3名様』は昔から読んでるしファンなんだけど、毎日ファミレス行けるって、それ、お金持ちですよね。
『誰かとご飯を食べるということ』の本棚
食べ物エッセイ四天王のひとつ。言うまでもないが、私が勝手に言ってるだけだ。
著者の少女時代から現在までを縦横無尽に飛び交いながら、食事をかいした人と人のつながりの記憶が丁寧に綴られていく。
『ジャムサンドビスケット』で書かれる祖母との記憶。『どぜう』で書かれる伯母とのどじょう汁の思い出。本書を読むと、著者である筒井さんと知り合いになりたいと思う。著者の思い出の中の自分の姿は、実際よりも色彩豊かに残っていく気がするからだ。
小説に出てくる一番好きな食事シーンを選べ、と言われたら、この本の主人公である男女が初めて二人で一緒に食事するシーンを選ぶ。
誰かと手をつなごうとするのは勇気がいる。
それでもその誰かと関わっていこうとしたときに、言葉がなくても、一緒に食事をすることそのものがコミュニケーションになること。
そのことに、私は心を動かされるのだと思う。
booplelink こちらは在庫あります。
『ばーさんがじーさんにつくる食卓』というブログで今もなお綴られている岡西夫妻の食卓の記録。
もー、なんだろこれ。
レシピを読んでてたまに泣きそうになる、っていう、「あれ、そんなとこに涙腺ってあったけ?」みたいな新しい泣きどころが開発されそうになる。
何年も何十年も同じひとと食事を食べること。
私にとってはもうほとんどファンタジーの世界なのだけど、だからこそこの本は魅力的なのだろう。そして出てくる料理が私には難しそうだから、いまだに一品も作れていないのだろう。
『何年も会っていない幼なじみに勝手に送りつけてみたい』の本棚
鳥肌は顔と足首にはできない。醤油は凍らない。卵は塩水にも砂糖水にも浮く。昇りのエレベーターの中でジャンプすると体が少し浮く。タンポポの綿毛は233本ある。温泉を煮詰めたら塩が残った…。
などなど。静岡双葉中学校という女子校の1年生の理科のレポートを本にしたものですが、とにかくおもしろいです。
なぜ? という不思議に思う気持ち。
そしてその検証。
これ、読んだ者同士で話が広がることうけあいです。
子供の頃はジャンプ放送局すら、すごく楽しみにしていました。今はもう雑誌の投稿コーナーというのも少なくなってしまったけれど、おそらく現在一番おもしろい雑誌の投稿コーナーが六年ぶりに書籍化しました。
週刊誌のSPA!は、この「バカはサイレンで泣く」だけいつも立ち読みして棚に戻しています。
「あれ笑ったわー」とか電話で話したいです。メールでもいいんですけどね。
境遇を越えて友情を育んできた、ショーン、ジミー、デイヴ。それから二十五年後、ジミーの十九歳の娘が惨殺された。事件を担当するのは刑事となったショーン。そして捜査線上にはデイヴの名が・・。
という話。
これ、デニス・ルヘインの傑作です。情緒に流れようと思えばいくらでも泣ける話にできるのに、作者は決してそれを許しません。生きていればバカみたいに辛い出来事と向かいあわなければならないときが来るのだ、と。友情や愛情では救えないものが、人生には確かにあるのだ、と。それでもなお、私たちの中に少年時代の友情はあるのだ、と。
何度も何度も、語りかけるのではなく殴りかかってくるように、この本に訴えられているような、そんな気がしました。
『帰るところ』の本棚
『イーストサイドホテル』高橋ヨーコ著/ピエブックス
雑誌『ku:nel』など多方面で活躍されている高橋ヨーコさんの写真集です。 極東のどこかの国の、とあるホテル。スタッフも、宿泊客も、この写真集には写っていません。このホテルに私は一度も泊まったことがありません。
見覚え、ゼロ。
にも関わらず、ページをめくるたびに感じるのは、懐かしさです。ロビー。シングルベッドがあるだけの、小さなこじんまりとした部屋。廊下。小さな、とても小さな椅子。いつか将来、このホテルに帰りたい。そう思わせてくれる、本だと思います。
『ウェルカム・ホーム!』鷺沢萠著/新潮文庫
『家族』とはなんなのか。『ふつう』とはなんなのか。誰もが一度は考えたことがあるけれど、なんとなく通り過ぎてしまう日常に浮かぶいくつもの問いを、鷺沢さんはいつも真摯に長く深く考え続けていたのではないかと思います。
本書に収録されている二編の小説には、いわゆる『ふつうの家族』は出てきません。
「おかえりなさい」
家に帰ったとき、誰かがそう声をかけてくれること。
自分が帰ったことを、誰かが受け止めてくれるということ。
私がお願いするすじあいではまるでないのだけれど、読み終えてから、『家族』ってなんだろう、と家族や恋人や友人と話しあってみてほしいと思います。
『間取りの手帖』佐藤和歌子著/リトルモア
不動産屋でおなじみの部屋の間取り。ほんとにあるの? 誰が住むの? と疑問がつきないほどわけわかんない間取りがただひたすら紹介されています。
これ、別の出版社で文庫版も後から出てるんですが、買われるなら絶対リトルモア版のものがおすすめです。著者の一言コメントもこっちの方がいいし、なにより本の造りが素晴らしいんです。読まなくてもたまにぱらぱらめくりたくなる感じ。あえて欠点をあげるなら、必要もないのに引越ししたくなることでしょうか。
『約束すること』の本棚
『卒業式まで死にません』南条あや著/新潮文庫
まず、強くおすすめできる本ではありません。理由
は読んだ人の数だけあると思いますが、著者である
南条さんが既に他界されていること、読む人によっては自殺やリストカットを是認されたような感覚をもつ可能性があること、などでしょうか。
それでもこの本を選んだのは、ひとえに著者の文才にあります。もったいない、と思ったんです。こんなに文章がうまいのに、こんなにおもしろいのにもったいないよ、と。
この本を読んだとき私は確か21歳で、死にたいとおもうこと、生きたいとおもうこと、そんなあれこれを散々考えたはずなのだけど、特に言葉にできるような答えは得られませんでした。あくまで個人の考えとして、すべての人に自殺する権利はあると私は思っています。ですが、ただ一つだけ30を過ぎた今言えるのは、理由も根拠もなにもなく、私はあなたに死んでほしくないんだと言える大人でありたいということです。
『私たちが書く憲法前文』大塚英志編著/角川書店
本書は、平成十三年から十四年にかけて月刊誌『中央公論』誌上で行われた読者参加型企画「夢の憲法前文をつくろう」に応募された全投稿を選考し、14歳から88歳まで、普通の人々126人が書き綴った理想の「日本」を1冊にまとめたものです。
憲法前文、というものをご存知でしょうか?私はこの本を読むまで知りませんでした。ごめん。簡単にいうと、こんな国にしよう、という国民への約束なのだと思います。
短いものから長いものまで、たくさんの憲法前文が載っているんですが、特におすすめなのが一番最初に載っている本当の日本国憲法前文なんです。えっ、こんなにいい文が前文になってんだ、と驚けばいいよ。驚けばいいじゃない。まああと、とかくないがしろにされがちですけど、『理想』について考えたり話したりするのはとても大事なことだと思います。
『ファンキー』松尾スズキ著/白水社
「ね、こうしない? 二人のうち、どっちかが先に死んだら、生きてるほうは、死んだほうを解剖するの」
「ええ?」
「遺書に書いときましょうよ。解剖して、体のなかに魂があるかどうか、確認してもらうようにって。ね。どっちが正しいかわかるわ。グッドアイデア! ね、約束しよ」
松尾スズキ率いる劇団「大人計画」の出世作「ファンキー」の戯曲本(ト書きと台詞で構成されたもの)です。松尾さんの作品に関してはエログロとかなんだとかいろいろ言われていますけど、作品全体を覆うやさしさのようなものが、私が松尾さんのつくるものに惹かれている理由なのだと思います。
あと、戯曲本なんて読んだことない、という方へ。試しに読んでみませんか? おもしろいですから。個人的には頭のなかで舞台を想像しながらの方が楽しめます。
























