毎月5日と20日の2回、テーマごとに3冊を選ぶコーナーです。
お金をめぐる本棚
『金儲けプロジェクト』略してk.m.pさんのエッセイ集です。
毎日、おなかにたまりやすい雑炊を味つけを変えて作ったり、なかなか払ってもらえない原稿料を出版社に請求したり、会社を離れてフリーになることは、どんな業界であっても「お金」と直接関わってゆくことだと思います。
女性2人で立ち上げた『k.m.p』の初期の活動がコミックエッセイにしては結構真摯に書かれています。
というのは漫画家・西原理恵子さんの言葉だけれど、お金がなくてもなんかなんとか生きていけるんだしかもこんな駄目人間な生活でもちゃんと暮らしてゆけるんだ、と安心させてくれる本です。
初めて読んだとき、とにかくこんなんでもいいんだ、とほっとしたことを覚えています。
町田さんの文章に触れたことがない方は、立ち読みででもちょっと読んでみてください。くせになりますから。
株投資という縁のない人間にはとことんわからない世界をエンターテイメントに仕立てた傑作です。
話自体は株投資の世界で伝説となっている老人がフリーターの主人公をプロフェッショナルに仕込んでゆく、という、まあ昔からある話なんですが、後半で老人が語る「金を稼ぐことを『卑しい』こととする風潮に対する苦言」は結構昔に読んだにも関わらず今も覚えています。
それでも続いてゆく生活の本棚
「ペイリーさんの小説は、とにかくひとつ残らず自分の手で訳してみたい」という村上春樹さんの言葉で一時期話題になった作家の日本第一作。
レイモンドカーヴァーの小説を読んでも感じることなんですが、10代の頃と同じように、何歳になっても私たちは小説で救われることがあるのだ、ということです。
ドラマなどでよく見かける「記憶喪失」。ただ実際は一時的・部分的な記憶の喪失の事例がほとんどだそうです。交通事故に会い、病院のベッドで目を覚ましたときから、家族や友人のことはもちろん、話すことや食べることやトイレにいくことなど、すべての記憶を失ったひとりの青年のノンフィクションです。
私は最初、これをテレビのドキュメンタリー番組で観ました。舌の記憶ですら赤ん坊の頃の状態に戻り、炭酸水すら痛くて飲めないような状況で、どうしていけばいいのか。
それでも記憶が戻らないとき、自分を愛してくれるひとたちになにがしてあげられるのか。
気軽におもしろかった、というのをためらってしまう、強い、とても強いノンフィクションだと思います。
北村薫さんの『時の三部作』シリーズの第一作。17歳の女の子がタイムスリップし突然42歳になってしまったとしたら。憧れていたような恋愛期間をすべてすっとばして、夫も子どももいる生活が始ったとしたら。
そしてここからが北村薫さんの『スキップ』の本題なのですが、例えば『バックトゥザフューチャー』のようにもう一度現在に戻れるのではなく、二度と、もう二度と過去に戻ることはできないとしたら。
同作者の『秋の花』で短い命を散らした一ノ瀬真理子のもうひとつの人生を、是非主人公と一緒にとまどいながら読んでみてください。
学びつづけることの本棚
たった一つの問題を何年もかけて解き続けた数学者たちのノンフィクションです。ノンフィクション作家として定評のあるサイモン・シンの名前を一気に広めた代表作。
考えること。考え続けること。喜びと苦痛。純粋な学問の形がここにあると思います。
近代日本の大思想家・福沢諭吉のベストセラー『学問のすすめ』の現代口語訳版です。
これ、岩波からオリジナルの文語版も出てるんですが、やっぱりすごく読みにくいのでこちらの方がおすすめ。勉強することがまだ特別だった時代の学問にたいする思いが綴られています。訳は斉藤孝さんが担当。
遠い外国から日本にやってきた少女・マーヤ。彼女をめぐる、少年のひと夏の物語です。
なにかをどうしても知りたいと思い、それについて必死に学び、自分ができることとできないことを知ること。ここには勉強することの一番大切な感情がつまっています。
男の子の成長物語としてもすばらしく、10代の頃に読みたかったと読後強く思いました。
酒とわたしたちの本棚
45年近く前に書かれたハードボイルド小説の名作です。“八七分署”シリーズのエド・マクベインの別名義、カートキャノンの名前で書かれています。
酒が好きというよりは、「どうしようもなくついてくるもの」として扱われていて、それがまたいいんですよね。
酒好きの代表・太田和彦さんが日本中の居酒屋をひたすらめぐっていく、旅行記というか食べ物エッセイというか飲酒日記というか、まあタイトルどおり放浪記です。
いわゆるうんちくめいたものは清々しいほど一切ないので、ご安心を。
地図をめぐる本棚
札幌の街路がずれている理由や、お詫びと訂正を読む楽しさや、戦後封印された地図についてなどなど、ほんとになどなどたくさんの地図トリビアが満載の新書です。
特別地図が好きというわけではなくても、絶対楽しめますよ。おすすめ。
時代によって、街の姿は変わってゆきます。以前あったものが既にないこと。江戸時代の地図と今の場所を見比べたりするのも楽しいけれど、この本の主人公がのめりこんでいるように、十年前や二十年前の地図を見るのはすごく楽しい。
それはたぶん、すべてが変わっているのではなくて、変わったものと変わらないものが混在しているからだと思います。
池波正太郎さんの食べ物エッセイ。昭和五十年代の東京や横浜の風景が見えてくるようで、今もある店、ない店を想像するだけで楽しいです。
個人的には『横浜あちらこちら』の章で描かれる横浜の様子がうらやましくてたまりません。この頃の横浜に行きたいです。
ほんわかする本棚
3ページから5ページ程度の短いお話が漫画形式で書かれた、おーなり由子さんの代表作です。代表作、っていうのは私が勝手に思っているだけですが。
冬の夜にココアとかコーヒーとか紅茶とか好きなあったかい飲み物を飲みながらふとんの中でごろごろ読んでほしいと思います。
1巻が品切れになっていたので、全3巻のうち一番好きな2巻目の『てのひら童話 空のともだち』にリンクをはっておきます。
みなさんそれぞれの好きなおはなしを見つけてください。
現役の教師でもある作家・瀬尾まいこさんによる、文芸部に所属する中学生男子と女性教師の物語です。
この本の魅力はいろいろあるんですけど、一番うわあとなったのは中学生の子と先生の距離感でした。
どれだけ仲良くなっても、中学生にとって学校の先生はあくまで『中学校』という通り過ぎてゆく場所にいる『ひと』に過ぎないこと。
『高校』へゆき、『社会』や『大学』に出てゆくこと。
そのことに読んでいてすこしだけ辛くもなったのだけど、それら全部を受け入れている教師の姿にとても安心させられました。
本好き男子の垣内君がかっこええですよ。
柴崎 友香さんと田雜 芳一さんによる、絵と文で綴られた往復書簡小説です。
京都と山梨。遠く離れている男女がお互いに出した手紙が交互に書かれています。
相手のことを考えているときにも、手紙を書いているときにも、それぞれの街でそれぞれの生活があること。
家族でも恋人でも友人でも、自分がいないときにも相手には相手の生活が、毎日のごはんや友人との会話やささやかなことで埋められた日常が続いていること。
当たり前なことだけれど、この本を読むとそのことが『さみしいこと』ではなく『うれしいこと』なのだと思えてきて、彼と彼女の生活が愛おしくなってきます。
江戸という時代の本棚
江戸研究家でもある漫画家・杉浦日向子さんが『日曜日の日本』と呼び愛した江戸。
その一つの時代の終わりと、上野戦争という、あまりにも無駄な若い血が流れた悲劇を描ききった傑作です。
私はこれを読んで、杉浦さんの随筆や漫画を読み漁りはじめました。
若いひとたちにはほとんど知られていないにも関わらずベストセラー作家の階段をかけあがった佐伯泰英さんの大人気シリーズの第一巻。
『密命』です。
私もそうなのですが、歴史小説はちょっとねえ、と遠慮しがちな方は是非どうぞ。
ここは、江戸開府405年後の江戸時代--。大身旗本にして江戸町奉行の貴晄は、父の今際の言葉からもう一人の弟妹の存在を知る。腹心・正成を使いに出し、出会った子供・そうびは幼少の貴晄そっくり!! 正成の誘いで江戸へやってきたそうびは一体どうなる!?
とかいう話。話なんですが、比較的江戸時代の検証はしっかりしています。(自分が気づく範囲ですけど)
楽しく笑って江戸について知りたいひとにはとってもおすすめだと思います。ますよ。
自然に立ち向かうひとたちの本棚
ある日突然イギリス中を泳ぎはじめた驚異のスイミングレポート。これ、書店員時代に新刊で入ってきて「絶対おもしろそう」と大騒ぎをしたのを覚えていて、最近ようやく読みました。
想像よりも骨太の、自然と人間との共存という視点も交えたノンフィクションになっています。なによりも泳ぐことの喜びについて書かれている部分を読むと、泳げない私にとってはまったく共感できないにも関わらず、作者の泳ぐことへの愛情が伝わってきます。
登山家・山野井泰史さんと同じく登山家である山野井 妙子さんが、たった二人でヒマラヤの難峰ギャチュンカンに挑戦した闘いと、極限の決断の記録。
登山・山野井泰史・沢木耕太郎、これらのキーワードの一つでも興味があるかたは絶対読むべきです。
これを読んでしばらくは、山野井さん関連の本を探しまくった記憶があります。すごい。登山家って、すごいですよ。
ジュールベルヌの名作『十五少年漂流記』の完全版。十五少年は読みやすくするためにエピソードをいろいろ削っているので、是非『二年間の休暇』を読んでもらいたいと思います。
とある事故から無人島に漂流してしまった少年たちの無人島でのサバイバルを描き、まあ上下巻と長いですが、なにより十五人の少年たちをあまなく堪能するには必要な量だと思います。『飛ぶ教室』とともに、少年ものの課題図書ではないでしょうか。
映画が好きの本棚
私が買った理由はただ著者のファン、というだけだったのですが、読んでみて驚いたのを覚えています。
たしか本の帯の推薦文でも似たようなことを書かれていましたが(たしか吉田戦車さんだった気が・・うろ覚えです)、映画の構造そのものに対する的確な批評と、「おもしろい」「たのしい」「かっこいい」「かわいい」といった子供みたいなおもしろがり方、この二つが共存しているのってすごいことだと思います。
文庫なので、正直相当昔の作品が多いですが、すべてTSUTAYAで借りられるのでDVDを借りるときいつも迷っている方は是非どうぞ。
タイトルは『映画篇』。特に男性にすごく人気のある作家さんですが、実は私はすこし苦手な作家だったりします。だったりしますが、それでもおもしろいと言わざるを得ない本だと思います。
連作短編形式で、各編に登場する映画への著者の想いと、物語としての完成度がきっちり組み合わさっている名作です。
私はこの本を読み終わった翌日、TSUTAYAに『ローマの休日』を借りにいきました。
著者は、映画『南極料理人』のフードスタイリストやほぼ日刊イトイ新聞で発売された『LIFE-なんでもない日ありがとうのごはん』の執筆などなど、今最も注目される料理家・飯島奈美さん。
さまざまな映画に登場するおいしそうなものを飯島さんが次から次に作ってくれます。これ、本は読んでないんですが、雑誌『アエラ』の連載時はよくこのコーナーだけ立ち読みしてました。
そうとうおいしそーですよ。
信じることの本棚
関東大震災の際に起きた、朝鮮人虐殺のことをご存知でしょうか?
朝鮮人が井戸に毒を流した、放火して回っているというデマが流れ、それを信じた民衆が数千人に及ぶ虐殺を行いました。昔話ではありません。ほんの八十年前の話です。そして、虐殺を行った側のひとたちは、殺人鬼でもなんでもなく、普通の、愛するひとがいて愛してくれるひとがいる、どこにでもいる日本人でした。
なにかを強く信じることの結果の一例として、できるだけ長く次の世代へと伝えていかなければならない、歴史だと思います。
モルモン教の特徴のひとつとして、信者ひとりひとりが直接神の言葉を受け取ることができる、というものがあります。
牧師などの存在を介さずに、直接神と対話することができる。
本書ではアメリカでのモルモン教の実態を丹念に描きつつ、「彼らを殺せ」という神からの啓示を受けた敬虔な信者の心の動きを追っていきます。
「信じる」とはどういうことなのか。
もう一度、ゆっくりと考え直すきっかけになる本だと思います。








