読後も覚えているような、ぐっときた言葉を紹介してゆく所存です。

あくまで作品の好きさではなく、切り取った言葉のみの好きさ。

 

 

 

死者はぼくらを支配する。その経験不可能性によって。

虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA)

 『虐殺器官』伊藤計劃著

       早川書房より抜粋

 

 たくさんの宗教がそれぞれの希望を発表しているけれど、私たちは死ぬことを経験することはできない。科学が導く結論は、正直に言って私には恐怖でしかない。意識が消え、すべてが暗くなることを想像するだけで、死にたくないと思う。今に始まったことではなく、高校生ぐらいから考えていたことだ。

 幽霊にでもなった方がまだましだ。そんなふうに思っていた。

 私たちは死を想像することしかできない。身近なひとをなくしたとき、とまどうのは、そのひとがどこに行ってしまったかがわからないからだと思うのだ。

 

 

この変化があって初めてつくったのは、書店に飛び込んで買った料理の本に載っていたアスパラの丸焼き。ただアスパラを焼いて塩と胡椒を振っただけだ。それを食べた時、おいしくてびっくりした。

やさぐれるには、まだ早い! (MF文庫ダ・ヴィンチ)『やさぐれるには、まだ早い!』豊島ミホ著

            メディアファクトリーより抜粋

 

 初めて一人暮らしを始めたときのこと。

 実家にいたときからご飯はそこそこ作ってはいたけれど、自分で材料を買ってきて、自分で作って、自分で洗い物をすることは初めての経験だった。

 もう当時の出来事は覚えていないけれど、この言葉を読んで、当時の感情をほんのすこし思い出したのだ。

 焼いてただ塩と胡椒を振っただけのアスパラは、心底おいしかっただろう。

 アスパラがおいしかったこと。

 毎日の生活が、たったそれっぽっちのことで、鮮やかになること。

 そのことにびっくりしたのだろう。