いまごろ『恋空』に、まんまとはまる。
ツタヤにある、コミックレンタルのコーナーをぷらぷらしていて、棚に、『恋空』(作画:羽田伊吹、原作:美嘉)全十巻があるのを見つけ、わたしは「おお!」とおもった。「おお! やってやるぞ!」とおもった。
初めて『恋空』に出会ったのは、2年以上前のことだ。コンビニの雑誌コーナーの脇で『恋空』はさんさんと輝いていた。
その日、仕事先に早く着きそうだったわたしは、時間調節のため立ち読みをしようと、近くにあるコンビニへ寄ったのだ。で、
「へー、あの有名な携帯小説って、漫画化もされてるんだ」
って、『恋空①(以下省略で『①』)』を手に取り、なんとなく読み始めた。そうなんとなくだ。なんとなく読み始めたまま、気づいたらなんとなく読み終わっているではないか。
あれ? 時計を見ても10分たっていないような気がする。あれ?
一冊に10分かからない。これは、普段かなり遅読のわたしにとって、恐ろしい快挙なんである。
しかし、なぜだろう。なぜこんなにも速く読めちゃうんだろう。
展開がないからではない。むしろ話は展開しまくりだ。『①』の中で、主人公の美嘉はヒロと付き合い、ヒロの元彼女の手下にレイプされ、嫌がらせされ、手首切る、と、盛りだくさんだったのだ。台詞だってけっこうあるし。
でもなんというか、絵はさらっと眺めつつ、字だけを追ってりゃいいっていうか。ただ展開に付いてゆけばよく、登場人物の気持ちも言葉通りで、忖度しなくていいっていうか。だからそれはもう、サクサクと読めるんだった。
これは、「速読気分」を味わえる、スバラシイ漫画なんじゃないか。
味をしめたわたしは、次の日もコンビニへと寄った。もちろん『恋空②』を立ち読みするために。
今度はちゃんと、時計を見てから読み始める。すると『①』より早い。おそらく『①』で、登場人物を覚えた効果だろう。読み終えるまで8分ちょいしか、かからなかった。速い、速すぎるぞ!
ってわけで、翌々日は『恋空③』である。すると、めでたく8分を切ることができた。
と、このように、着々とわたしの「速読気分」は満足させられてゆくかに見えた。
しかし翌々々日、なんということだろう。『恋空④』がない。誰かに買われてしまったのだ。がっくし。
そこで仕方なく『恋空⑤』を読む。と、また8分台に舞い戻ってしまった。やはり一冊飛ばすと、その分の話を想像で補わなければならず、スピードが落ちてしまうのだ。
口惜しくなり、つづけて『恋空⑥(いい加減、以下省略して⑥や⑦にします)』に挑戦しようとおもうと、『⑥』もなかった。『⑦』もなかった。『⑧』もなかった。わたしはしょんぼりした。
そうして、すっかり『恋空』のことを忘れたのだ。
のだが、いま目の前の棚に『恋空』がある! 2年以上越しの『恋空』との邂逅に感動し、もちろん速攻で、わたしは全十巻を借りた。
それからスーパーに寄って、読書のお供にとポテトチップスとドクターペッパーを買い、せっかくだからきっちり時間を計るべく、ストップウォッチも買って帰った。
そして、ついに、ついにやってやったのだ。わたしは、おそらく生まれてこのかたの最速記録であろう、6分26秒で一冊を読み終わったのだ。
全記録は、下記のとおりである。
『①』10分27秒
『②』 9分08秒
『③』 8分25秒
『④』 8分10秒
『⑤』 8分01秒
『⑥』 6分36秒
『⑦』 9分41秒
『⑧』 6分26秒
『⑨』 6分30秒
『⑩』 9分45秒
というわけで、これから全記録が出るまでのあらましを書きます。それはもう、ただ自分のために。
すでに一度読んでいたというのに、『①』と『②』の記録は伸びなかった。
きれいさっぱり、話を忘れていたからだ。その事実に衝撃を受けるが、「何度でも楽しめる『恋空』」と、わたしは前向きに捉えたいとおもう。
とはいえ読んでいるとき、「あれ、まったく覚えてないじゃんっ」ってな動揺がわたしを襲ったことも事実で、これが遅くなった原因の一つのような気もする。また、家で読んでいるため、コンビニで立ち読みしているときの気が急ぐような感覚がないことも、影響したのかもしれない。
少々焦ったため、『③』でだいぶ持ち直し、『④』『⑤』と、順調に記録は縮まっていった。
そして転機になったのは『⑥』である。途中で電話がかかってきたため、ストップウォッチを止めて、わたしは焦って応答したのだが、頭にあるのは「電話でいままでの内容忘れちゃう。そしたら遅くなっちゃう」ということだけなのだった。ただでさえストップウォッチを止める動作で、時間のロスができてしまったのに!
と、上の空で電話をしたのち続行したのだが、すると危機感を持って読んだからか、記録はぐんと上がったではないか。世の中、なにが功をなすか判らない。
しかしその慢心から、ポテトチップスとドクターペッパーに手を伸ばす回数が多くなっての、『⑦』の惨敗である。慢心って、怖いよ! ほんと。
ってことで、心を引き締め挑んだ『⑧』と『⑨』は、またまた快調。『⑧』で、今回の最速記録をたたき出したのだ。
やっとペースもつかめて来たし、もっともっと読みたいのだが、残すところあと一冊。わずかでも早くページを繰り、わずかでも早く読み終われ! と、『⑩』へと対するわたしの気合いは、その日一番だった。のだが、話は佳境である。「死んでしまったヒロの日記を美嘉が読む」というシーンが延々とつづき、だからつまりは「字」ばっかりなのだ。それを読むのに時間を食い、最後の最後で口惜しい結果となった。
まあ、ってかんじで、やってやったよ! わたしは!(速読を?)

