『クビキリサイクル』西尾維新
さる財閥のお嬢様が世界有数の『天才』たちを、自らの所有する孤島『鴉の濡れ羽島』で開かれるパーティに招き、そこで行われる連続殺人事件を主人公であるところの凡人『いーちゃん』が解決する、というあらすじ。
あらすじだけみればオーソドックスなミステリものという印象を受けるし、それは間違っていない。物語の骨子は、この上なくストロングなクラシックミステリの手法に基づいて描かれている。
さらに島に招かれた天才たち……あらゆる絵を描けるスタイルなき画家だの世界の真理に最も近いとされる『七愚人』その一人だの、世界のサイバーグラウンドを牛耳る天才技術者だの、ESP持ちの占い師だの、一度味わった料理は完璧に再現出来る上オリジナルより旨く作ることのできる黄金聖闘士だの、と。その錚々たるメンツが見事に煙幕となり花束となり、物語をより一層複雑怪奇なものに仕上げてくれている。
しかしながら殺人の方法、トリック、それ自体はものすごくシンプル。凡人の考えつくそれと大差ない。事細かに書いても、ツイッターで呟ける程度の文章量で説明できてしまう。
なぜ? こんなにも天才たちが、しかも中には『エスパー』と名言されている人物までいるのだから、もっと破天荒な方法でもよかったはず。そう、例えば、
「そうか! 凶器を使わずに相手を凍りづけに出来る方法が一つだけある! オーロラ・エクスキューションで、被害者の身体を気化冷凍すればいいんだ!」
「すごいわはじめちゃん! でも、被害者は氷属性なのよ!?」
「それは簡単さ、これを見な!」
「それは! アザトースのケイオス・サーキット!」
「これで、相手の属性レベルを反転させたんだ! 被害者の氷結臨界『タナトス』が通じなかった理由はこれで説明がつく!」
「でもでもはじめちゃん! オーロラ・エクスキューションは満月の日には使えないんじゃ……」
「ふふふ美雪、被害者が殺された当日に小規模ブラックホールで月が破壊されていたのを忘れたのかい?」
「アっ……! すごい! すごいわはじめちゃん! でもどうやって犯人は窓の無い密室に侵入できたのかしら……?」
「そればっかりはわっかんねーんだよなー!」
となっていてもおかしくはなかったはず。それぐらいのメンツだったはず。なのに、古典的とも言える手法で殺害に至らなければいけなかった理由は何か?
その理由も実は作中でしっかりと説明されている。その真相に辿りつくのが、天才ではなく、凡たる主人公でなければならなかった必然性も見えてくる。派手で荒唐無稽な人物設計に気をとられていると、作品に足元を掬われることになるだろう。ともかくキーワードは『天才』ということであり、また、天才も一つの『人間』の形だということだ。
いいこと言ったべ?
