『テンペスト』池上永一著
舞台は十九世紀末の琉球王朝。勉学は男性のものであり、女性は賢くある必要はなくただ慎ましく淑やかに男を支える礎であれと、そんな男尊女卑ど真ん中の時代に生まれ落ちた一人の天才少女と、その波乱に満ちた人生の物語。そんなあらすじだけ頭に入れて読み始めたら数ページ目で度肝を抜かれた。
この天才少女が、マジで天才少女なのだ。
こう書くと、何を言ってるんだそれを前提にして読み始めたんじゃないのかお前はこのクズだからここ数ヶ月軟便しか出ねぇんだよ、と思われるだろうがちょっと待って欲しいし軟便のことはあんま言わないで。
もちろん天才少女という設定は頭に入ってはいたのだけれども、その天才具合がちょっとやり過ぎなのだ。せいぜい頭が切れるぐらいのことだと思っていたら武術もこなせるし教養もあるさらに器量も天下一、踊ってみろや歌ってみろなどという無茶ぶりにも「私やったことないんです」と言いつつその辺のプロ顔負けのパフォーマンスを披露する壊れスペック。まさしく天才少女であり、天然チート娘であり、第一声から「オッス! オラ伝説の超サイヤ人孫悟空!」なのだ。
てっきり才能ある少女が逆境にも負けずにのし上がっていくシンデレラ・ストーリーだと思ってたら、シンデレラ自身が魔法も使えましたみたいな展開に正直なんなんだよ感を覚えつつも読み進めて数十ページ。
また抜かれた。度肝。予備でとっといたやつを抜かれた。
宿命だとか運命だとかでこの少女はとにかく波乱に巻き込まれるのだが、その波乱のレベルが尋常じゃない。
努力や才能でどうにかなる次元を遥かに超えている。「がんばれ、負けるなー!」なんて言葉も焼け石に冷えピタ。気休めにもならない。王手級の大災難が矢継ぎ早に襲ってくるのだがこれまた少女のメンタルが異常に強く、とっくに心折れちゃってる読者を無視して、ぼろぼろになりながらもなんとか打破してしまう。そうすると今度は宿命側が「あいつ打破しやがった!」とムキになり、しまいには詰む詰まないどころか「ビンゴゲーム勝負のはずなのに渡されたカードがどう見ても板チョコ」みたいなクソゲー仕掛けてきて、もう読んでるこっちが「それ、明日にしない?」となる。
そんなのが二千ページ近くも間断なく続く。まさにジェットコースター、それも遊園地どころか福岡―東京間繋いでんじゃないかってぐらいの超長距離ジェットコースターノベル、だが憎たらしいかな、緩急の付け方が絶妙なのだ。読み進める手を止めることができないのだ。ジェットコースターなのに途中でスタバとか寄ってくれるのだ。寒かったら毛布くれたりするのだ。
肩で息をし、汗水流して、およそ小説を読んでるとは思えない形相で、だがそれでも最後まで読み干したときに現れる景色は決して君を裏切ることはないと断言できる。本作の峻厳さを超えたその先を是非見てほしい。心からそう思える小説だった。
ただ妊娠中の方や高齢の方は医師と相談してからのほうがいいかもしれない。



