『ドントクライ、ガール』ヤマシタトモコ著

 

 

 なぜ、好きな女の子に告白する時に素っ裸ではいけないのだろう。

 

 いくら真摯な言葉で、あるいは真っ直ぐな眼差しで愛を伝えても裸である以上返ってくる答えは「服を着ろ」の一点張り。あまりに理不尽だ。

 

 そもそもいったい、服とは何なのか。

 

 我々が普段身につけているこの布切れが服だろうか。今着ているこの黄ばみきったTシャツが、なぜか背中側にミートソースの跳ねているこのTシャツが服なのだろうか。これを身につけていなければ、人は愛を語らう権利すら与えられないのだろうか。

 

 答えはNOだ。

 

 こんなものに頼らずとも想いを告げることは可能だ。たとえ部屋で一人素っ裸であろうと、それを悟られずに愛を囁く方法が現代には溢れているではないか。勃起の風に吹かれようと、何食わぬ顔で恋人と来週の予定を話しあう手段に満ちているではないか。布切れだとかTシャツだとか、服とはそんなのことではない。服は裸を否定する概念でしかない。部屋で一人素っ裸でいるのなら、その部屋こそが君の服だ。手狭な1DKを颯爽と羽織っているに過ぎない。裸で外に出たなら、その瞬間に君は地球をタイトに着こなしているのだ。裸の外側に向かって無限に広がる宇宙、それこそが服の正体だ。

 

 なるほどそんな状態では好意を持たれるわけがない。地球を羽織った君にとっては服を着た彼女も君の一部、君の支配下の存在に過ぎない。それでは愛を紡ぐことなど不可能だ。牢に恋する囚人などいないのだ。

 

 それでもどうしても愛を伝えたいと思うのなら解決方法は一つしかない。彼女を君の服の外へ出すこと、つまり、君が衣服を着ることだ。

 

 衣服をまとった瞬間君の宇宙はそのわずか数ミリの隙間に凝縮される。さあそこからは激痛だ。その宇宙を突き破って君は愛を囁かなければいけない。彼女もまた同じ痛みを伴って君の言葉を受け止める。互いの宇宙をぶつけ合い、互いの服を壊し合い、そうしてやっと対等になるのだ。牢と囚人ではなく、裸の男と裸の女として。

 

 この作品が教えてくれるのはそこだ。そこまでだ。それ以上は君次第だ。 わかったなら服を着よう。 君の宇宙がはみ出ない程度に。

ドントクライ、ガール (ゼロコミックス)