『僕の妹は漢字が読める』かじいたかし著・皆村春樹イラスト
たとえば文芸におけるジャンルというものが一つの国家のような存在で、その中の「ライトノベル」国の元帥が君だとしよう。
さあ世はまさに戦国時代だ。君の前では文学国が要塞を築き、右にはミステリ国が睨みをきかせ、左からはSF国が君に照準を定め、一歩でも退こうものならケータイ小説国の穂先が尻に当たる。そんな中で君はどう振る舞えばいいだろう。どうすれば生き残ることができ、また存在意義を示すことができるだろうか?
その答えは、この作品が示した。
物量と歴史では文学に遠く及ばず、知識・技術の最新性はミステリやSFに劣り、フットワークの軽さでケータイ小説に遅れを取ってしまう。そんな中この作者が取った戦術は実にシンプルかつ無謀なものだ。挑んだのだ。単騎で、真正面から、獲物を一本だけ握りしめて真っ向から文学国に喧嘩をふっかけた。
数万の大軍勢に立ちはだかったのは、褌に抱き枕カバーを羽織り槍を一本握りしめた男が一人。
文学国はしばらくキョトンとした後失笑した。兵の士気は高く、視界も良好、まして明日は妻の誕生日。これだけの勝利条件を揃えた文学国に、正々堂々と、しかも単騎で装備もなく勝負を仕掛けるなど滑稽千万。兵たちは大いに笑った。笑った兵の首がいくつか飛んだ。
大輪の花を咲かせて倒れる仲間を呆然と見ていた文学軍だが、やがて我に返ったように男にライフルの照準を向け一斉に発砲した。しかし一瞬遅い。男はすでにそこにおらず、弾丸は残像のように残った抱き枕カバーにいくつか乳首を追加しただけだった。部隊の上空を飛影が掠める。「男の狙いは将軍の首だ」空を翔ける男に再び火を噴くアサルトライフル、今度は間違いなく男を捉えた。男は蜂の巣になりながら笑った。唖然とする兵を眼下に見ながら、右手にもった将軍の首にキスをして、散華した。・・・・・・。
本作が未来永劫語り継がれることはないかもしれない。おそらく他のライトノベル作品同様、時と共に風化し忘れ去られてしまうだろう。
しかしこの作品は間違いなくライトノベルの役割を示した。その本質を明らかにしてくれた。そしてまた、ライトノベルというジャンルは決して風化せず、これからも続いていくだろうという確信を持たせてくれた。それだけで充分なのだ。
真正面から撃つ音速のフィニッシュブロー。
三百六十度どこからでも飛んでくる疾風のカウンター。
それを見せてくれた本作に、喝采を送って筆を置く。
