『十二国記/月の影 影の海』小野不由美
なんの変哲もない女子高生・中島陽子が、突如金髪異邦美青年に拉致されて異世界へ!? 陽子のことを「主」と呼ぶ美青年の目的とは! そして陽子に課せられた重大な天命とは!?
そういうあらすじと、もともとが講談社X文庫から出ているという経歴から、あーなるほどそういうことね。よくある異世界美青年拉致ものね。どうせあれだろ、最終的にどや面下げた美青年にお姫様抱っこされた主人公がカメラ目線で「はわわっ!?」みてーな顔だろ? 花とゆめコミックスの表紙みたいな展開だろ?
と、偏見たっぷりで読み始めたら思いのほか裏切られた。「はわわっ!?」エンドは、まあ、あながち的外れでもなかったんだけどその過程が凄い。凄いっつーか酷い。陽子が異世界に飛ばされてから実に三百ページ以上に渡って繰り広げられる旅路が過酷。過剰に過酷。
もし自分がこの主人公の女子高生だったら、こんな展開になった時点でちょっと「はわわっ!?」展開を期待すると思うんだ。なんだかんだあって日常から切り離されちゃったけど、実際この世界は元の世界より自分に優しいんだろうな。大陸丸ごと私をお姫様抱っこしてくれるんだろうな的な空想をね、抱くと思うんだ。
そんな空想を、作者であり、他ならぬ主人公の生みの親である小野不由美が「るせぇ! 脳髄にりぼん展開ガンギマリさせてんじゃねーよ小娘が!」つって潰しにかかる。そりゃもうボロクソに、完膚なきまでに。
序盤で「おうちに帰りたいよう!」つって泣いてる主人公には自分も「何泣いてんだよ、甘えてんじゃねぇ! 年金払え!」ぐらいの気持ちでいたんだけど、上巻を読み終わる頃には「あ、あの、小野さん、本人も反省してるんで、あの、なんていうか、そのへんでいいのでは……」って思っちゃう。行間ガン見したところで救いなんかひとっかけらもない。思わず章が区切られる度に「でも俺は陽子のこと好きだよ」って書いてあげたくなる、そのぐらいボロカスに潰されていく。
こっちとしては読んでて辛くて辛くて仕方がない。でもそのボロカスにされる過程の中で、うまいこと世界観だとか陽子の運命だとかが解き明かされていっちゃうので、ついつい読み進めちゃうんだけども、その先でさらにギッタギタにされる陽子。救いがない。
もうなんか小野不由美が異常に生理重いときに書いたんじゃねーか、ってぐらい辛い展開なんだけども、最後まで読むとこれが決してストレス発散のためではなく、結末に必要なものだったのだと気付かされる。最後の最後でやっと現れる「はわわっ!?」展開も、常人には想像も及ばないほどの覚悟によって行われていることなのだと。
是非とも一読して頂き、女の子が「はわわっ!?」顔をするためには、これほどまでに過酷な試練を乗り越えねばならないことを知ってほしい。それは、きっと、君がこれから「はわわっ!?」顔をする時に必要なことだから。

