『十角館の殺人』綾辻行人著

 

 デビュー作にして最大の傑作の呼び声高い綾辻行人至高のミステリ。

ってな触れ込みはずっと前から目にして耳にしてあんまりにも凄いミステリとして名前だけが俺の新皮質に刻まれたもんだからドラマの「ガリレオ」をキッカケに東野圭吾にハマった人に「何かオススメの推理ものある? 東野圭吾みたいなのが読みたい」って言われたとき「じゃあ十角館の殺人がオススメだよ!」「福山でる?」「でるよ!」とかいったり。そんぐらい読んだことない本作。

 面白いとわかってるモノには食指が伸びないというファッキン天邪鬼'nな人生を送ってきたというのも一つ理由ではあるのだけど、俺はそもそもミステリを読むのが苦手凄く苦手。

 特段嫌いというわけでは断じてない。ミステリの味であるとこの精緻な叙述構造、散りばめられた伏線とミスリード、作中で混交する確信の疑惑のダブルスパイラル! 犯人は誰なのか? そしてその意外な動機とは? なぜ密室で殺人が可能だったのか!? 何故なのか!? 不思議だ! 知りたい! どこかに答えは無いのか!?

――で、我慢できずに最後のページを先に見ちゃう。

 いやだって無理だよ気になるんだもん! しかもそれが最後の方に書いてあるんだもん! 見ちゃうよそりゃ、見ちゃうって、ネクストコナンズヒントなんか待ってられっかっての、むしろ俺がおっちゃん眠らすわ! クロロフォルム仕込んだパイを顔面に投げるわ!

 わかってる、これがいかに作品を台無しにしているかということも重々理解している。俺みたいな人間はホント、ミステリの世界に一足たりとも踏み入れてはいけないんだよ。「犯人はこの中に?」「次は誰が犠牲に?」「そして誰もいなくなるか?」って言ってる輪の中にドロップキックしながら突っ込んでいって「いなくなるよ! 俺見た! 全員いなくなるよ!」って言っちゃうんだもん。そらアガサも憤怒頂天を突く勢いで「これはアガサの分! これはメアリの分! これはクラリッサ……そしてこれは、クリスティの分だァー!」そして俺がいなくなる。

――みたいな話を友人にしたところ、ビニールを駆使し「ちょうど犯人がわかる寸前のところまでを読めなくしたエディション」にハンドメイドしたものを俺に貸してくれた。

 「これなら、ビニールを破ろうとしたところで理性が働くだろう」とのこと。

 確かに、このやり方ならば俺の奔放な好奇心を自制できるかも! という想いと、綾辻行人本人でもそこまでして俺に読まそうとはしないだろ、という想いが交錯したもののせっかく俺色にしてくれたものを読まないわけにもいかず、久しぶりにミステリというものを読んでみた。もちろん、今回はビニールのお陰もあってセルフネタバレもすることなく、しっかりと、順序だてて、始終滞りなく読み終わった。

 すごい。

 内容については一切触れたくない。この作者はここまで精妙なる構造と巧妙なる仕掛けと絶妙なる筆致でもって守り抜いたあのどんでん返しを、少しでも匂わせるような真似をしたくない。それは墓荒らしにも近い冒涜行為だ。ただただ凄いとしか言いようが無い。確かに、この驚きを守るためならビニールでわざわざネタバレを防いでくれた友人の努力も理解できるし、感謝できる。

 犯人がわかるあの数ページ、一ミリにも満たない厚さの二次元で人をあんなにも驚愕させれるものかとアナルがめくれるぐらい感心した。これから読もうという人はぜひともコレに関する一切の情報を遮断、できることなら耳に溶けた鉛でも流し込んでから読んでほしい。それぐらいの価値がある一冊だ。ウソ、耳に鉛流すほどの価値はウソ。せいぜいキャラメルコーン差し込むぐらいにしときな。

十角館の殺人 (講談社文庫)