嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん

 

 

「読まないほうがいい」


 この作品を人に薦めるときどういう言葉が最も適当だろうかと考えて、一番しっくり来たのがこれだ。


 書籍を人に薦めるのなら、まずそれがどういうジャンルの作品なのかを理解していないといけない。ミステリ好きにハイファンタジーを薦めても食いつきは悪いだろう。ジャンルを明確にできれば事前にある程度の覚悟や期待を抱かせることができるし、それは読み進めるモチベーションにも繋がる。では今作のジャンルは何なのだろう。

 

 多彩なキャラクターが物語を紡いでいくのはまさにライトノベルだ。

 主人公とヒロインを軸に話が進むのだからボーイミーツガールだ。

 主人公たちの年齢は高校生で、恋愛要素とギャグ要素も入っているから青春ラブコメでもある。

 無機質な主人公の性格はハードボイルドものに通じる。

 作品を通して漂う緊張感はサスペンスそのものだ。

 根源的な不安を想起させ、思わず後ろを振り向いてしまうほどの恐怖も感じる。

 昨日同じつり革を使った殺人鬼、そんな日常と隣り合う陰湿な残酷さは伝奇的だ。

 思わず膝を打つどんでん返しはミステリ以外なんだと言うのか。

 読後の現実乖離感、ああ、いいSF作品だった。

 

 そうかなるほど、こう羅列してみると万人にウケそうな小説じゃないか。

 いや、しかし、待てよ。


 宇宙人もスーパーマンも出てこない。いるのは子どもと学生と少しの大人、そんなものがSFと言えるか?

 追い詰めた犯人よりも主人公の方がもっと残酷な鬼で陰惨な秘密を抱えている、そんなミステリは聞いたことがない。

 誰もがそうなる可能性を秘めている。彼らが特別なわけじゃない。伝奇だなどととんでもない、これはただの日記だろう。

 根源的な不安? みんな毎日平気な顔で触れているものだろう?

 馬鹿馬鹿しい。大好きな人と一緒にいてドキドキすることの、何がサスペンスだ。

 自嘲と自傷に苛まれるハードボイルドとは、まるで出来の悪いコントだ。

 散りばめられた恋愛要素、ギャグ、キラキラする青春・・・・・・嘘でなければ良かったんだが。

 ボーイは認める。ガールも当然。しかしミーツはどうだろう。

 作中の誰ひとりとして友人にしたくない。何ひとつとして羨むところがない。

 それはライトノベルなのか?


 おかしい。これでは誰にも薦められない。

 この作品はまさにそういう作品なのだ。要素が要素を殺し合い、その死体を食って作品が太っていく。「これはこういう作品だろう」そういう先入観が、一行ごとに咀嚼されて飲み込まれていくのだ。気づけば君自身も頭から丸のみされ、作品の胃袋で要素の一つとして溶かされ、やがて朦朧としたまま作品から吐き出されるのだ。その状態で明確な感想を抱くのは難しいかもしれない。だけど冷えてざらついた舌が頬を這いずった感触は覚えているはずだ。手を触れればぬらりと糸引く唾液が思い出され、そして同時に「面白かった」と認めざるを得なくなるだろう。

 しかし、この作品に何かを期待するなら改めて念を押す。


 読まないほうがいい。

 

嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん―幸せの背景は不幸 (電撃文庫)