『火星人ゴーホーム』フレドリック・ブラウン

 

 

 異星人侵略モノ。端的に言うとそういうものだ。


 しかし映画『インデペンデンス・デイ』のような、宇宙から飛来する謎の巨大戦艦だの人を一瞬で蒸発させる光線銃だの都市一つ丸ごと消し飛ばす中性子爆弾だのといったオーバーテクノロジーを期待してはいけない。そういうSFめいたトンデモ科学や難解専門用語は一切登場しない。


 現れるのは緑肌の不気味な小人が十億匹、それのみだ。丸腰どころか着の身着のままで地球にやってきた彼ら火星人に、地球侵略など可能なのか?

 

 答えはイエス。自信を持ってイエス。この作品に登場する火星人は皆、ある恐るべき能力を有している。我々もよく知るあの能力――不可解な超兵器や非科学な超能力など鼻で笑ってお釣りが来るほど効果的で残忍かつ無尽蔵でありながら不可抗な侵略行為――そう、彼ら火星人みな一様に、途方もなく、人類を滅ぼすのに充分なほど、

 

 口が悪い。

 

 それだけ。彼らによる侵略は本当にそれだけだ。人類を疑獄に叩き込み、最新兵器を無力化させ、さらには世界経済を未曽有の大恐慌にまで陥らせるまでに人類を追い詰める、その手段があろうことか小学生並の悪口とはにわかに信じがたい『よぉ兄ちゃん、相変わらず足りないおつむで駄文ひねってんな』そう、ちょうどこんな具合に。

 

 彼らは唐突に現れる。『人を泥棒みたいに言うんじゃねーよ。挨拶が遅れたのは、兄ちゃんの顔とキンタマの見分けがつかなかっただけさ』しかも彼らには実体がない。その存在を映像として地球上に投影する謎の技術『【クイム】ってんだ。書いてあったろう。それとも何か、原稿の〆切ギリだから斜め読みで済ませたのか?』・・・・・・クイムのお陰で我々が力づくで彼らをどうにかしようとしても、全て無為に終わってしまう。

 

 彼らは好奇心たっぷりに『兄ちゃんに言われたくはねーな』我々のプライバシーを損害し『ハハ、悪かったよ。兄ちゃんが小指でケツ穴試してるところを覗くつもりはなかったんだよ』あることないこと喚きちらした挙句『おいおい、おれたちは嘘はつかねーぜ? それも書いてあったろうが』黙れ。おれは至ってノーマルだ『ああ、知ってるさ。試したあと「やっぱり普通が一番だな」って呟いてたもんな。ただ小指を試す時点でどうかと』ただの確認だ。自分の身体に異常がないかどうかを『身体は健康でもおつむの消費期限が過ぎてらぁな。その腐れ白子を診断したがるのなんか、マスクつけたナウシカぐらいだろうぜ』

 

 ・・・・・・この侵略行為に対抗する方法はただ一つ、見ないフリをすることだ『普段見ないフリされてる奴が何言ってやがる』おれは別に見ないフリなんかされてないだろ『ほう。完璧に隠せたと自負していた微エロ本が、ある日全部キチンと本棚に収められていたのも偶然だと?』それは母親が掃除してる時にたまたま見つけ『全部隠し場所が違ったのにか? オヤマ菊之助は本棚の裏で、ギリギリぷりんは塾カバンのサイドポケットだっけな。親にはとっくにバレてんだよ。ただカワイソーだから見ないフリしてただけだ』黙れ。黙れよ。なんなんだお前らは、下卑たことしか言えないのか『下世話じゃない兄ちゃんの秘密ねえ。たびたび母親の財布から千円札を抜き取っていたこととか』おい、ちょっと『それとも芸人になる夢にかまけてた高二の頃、母親が廊下で洗濯物畳んでるのにも気づかず大声で「オレ、家出して大阪に行くから。親なんかバレなきゃいいんだべ」つってドヤ顔ダブルピースを』わー! わー! わっ、だー! ・・・・・・。

『おーい、どこ行くんだ兄ちゃん。いつもみたく文章の締めにやんなくていいのか。ッターン! ってやんなくていいのかー?』