『空の境界』奈須きのこ著
「絶対おもしろいって!」
なんつってバーミヤンで友人にガン薦めされたのが本書。それまで私はライトノベルを一切読んだことがなく、そんなことよりラーメンをすすってる女の子ってエロくねえ? 女の子のエロい姿を手軽に見られるように作られたのがラーメンっていうレシピなんじゃねえ? みたいな思索に耽る方が好きだったので大して読む気にもならず。
「でもライトノベルとか好きじゃないんだけど、三島由紀夫とか好きなんだけど」
「三島もライトノベルだから!」
と言われたので借りて読んでみた。うん。騙されたクソが。とりあえず一点言えることは、三島由紀夫が読みたいときにはマジオススメできないっていうか水と油。しかしながら借りて読んだこと自体に後悔はないし友人の何かキマってるとしか思えない薦め方にも納得いった。
内容は伝奇物、というのだろうか、異能が起こす異常な事件を綴った超常ミステリ。割と脈絡なしに「魔眼」とか「能力」って言葉が出るし主人公も浅葱色の着物に赤い革ジャンというエキセントリックな格好で、さらに人々はそれに関してノータッチ。なのでその辺の設定がだめな人は読まない方が、っていうかそんなの読書しにスポーツジム行くようなものなんで思慮外。
上述の設定を単なるエレメントとして読み進めていければ、本書のおもしろさが見えてくる。
超常設定におんぶにだっこの尿瓶で寝たきりではなく、ちゃんとそれらにも理由付けがなされている。能力にも、現象にもちゃんと理由がある。こうなると一見しただけでは「なんだよ中学生が勢いだけで考えたような設定だな」と思われる部分にも「もしかしたらどこかが伏線になってて、ちゃんと理由があるのかも」と疑わざるを得ないし、そして、驚くべきことに、きっと、あるのだろう。超常の全てに理由があるのであれば、それはもう創作を超えて『世界』といっても過言ではない。活字上に立体的にそびえたつ物語世界を体験することはちょいとした旅行に行くようなもので、るるぶを読むより余程異文化に触れた感がある。
文体、文章量自体はライトノベル然としているし著者の本来がゲームライターということもあって非常にすっきりとまとまっている。じゃあ濃密な文体を好む人は楽しめないのかというとそんなことも全くない。さすがの手腕というか、短い文章の中でインパクトを与える術を熟知しており一文一文が非常にキャッチー。
「生きているのなら、神さまだって殺してみせる」
「―――骨か、百合だ」
「……凶(まが)れ」
などなど、風呂場でつい言いたくなる表現が特盛り沢山。退屈することはなかった。中学生のとき本書に出会っていたらたぶん学校に浅黄色の着物と赤い革ジャン着て登校した挙げ句、校門にいる体育教師からシャイニングウィザード喰らってご留年だったろう。分別のつく今、まさに出会えてよかった小説といえる。


