『這いよれ! ニャル子さん』著:逢空万太/イラスト:狐印

 

 「這いよれ! ニャル子さん」
 このタイトルからも察せられる通り本作のモチーフはかの有名なクトゥルー神話。

 『クトゥルー神話』。ライトノベルというジャンルがこのじゃじゃ馬をどう料理するかに興味があった、というのは建前で、むしろ「どうせお前じゃ乗りこなせないだろう!」ぐらいの気持ちだった。「所詮君らじゃ、僕のこのV6エンジンを積んだシボレーに勝てっこないさ! なんせパパがV6エンジンの知り合いだからね!」ぐらいの気持ちだったけれど、なんていうか、良い意味で裏切られたというか、良い意味で裏切られた、というか裏切られた。良い意味で。

 ライトノベルなんて挿絵のついた子供向けのもので、アレだろ、どうせ文字も「ひらがな練習帳」よりちょっと小さいぐらいだろ? 最近のヤング者は二行以上のセンテンスは「文章」じゃなくて「ムカデによく似た虫」って思っちゃうんだろ? お? って思ってたんだけど、アレだね、ライトノベルって面白いね。

 狭いジャンルでしか通用しないネタをふんだんに使いこなしたいかにもな文章はまさに線香花火にガソリンぶっ掛けるような刹那性があり「ここ! 今! 今読まないと面白くないから!」という、ある種圧倒される程の生き急ぎ方をしてて、この辺はああなるほど、ライトノベルってこうなんだなあ、と納得するが、根幹であるところのクトゥルー神話の調理法が面白い。

 まずもってクトゥルー神話に登場する邪神たちは全員「宇宙人」であるという設定。さらには地球人は宇宙随一の「娯楽の天才」であり、文明的にはまだまだ発展途上であるにもかかわらず様々な惑星からUFOが飛来するのはその地球独自の娯楽を求めるがゆえであり、またニャルラトホテプをはじめとする邪神星人たちも娯楽目的で地球に飛来し、その時クトゥルー神話を生み出したH.P.ラヴクラフトに出会った……つまりクトゥルー神話は創作ではなく、ノンフィクションだった、ということ。

 要するにこの逢空万太という作者は、この宇宙における地球という惑星を丸ごと我々の世界でいうところの『日本』のような位置に持っていったのだ。ご存知の通り日本はジャパニメーションという言葉が作られるほど映像娯楽に長けた国であり、世界各国からそれを求めて来日する人も多い。外宇宙から飛来する邪神群も、そうやって来日する外人と全く同じノリで地球に来ちゃってるのである。

 それがわかると、何故か主人公の邪神『ニャルラトホテプ』ことニャル子がやたらエロゲ、コミケ、同人諸々のオタネタに精通しているかまで筋が通ってしまうから凄い。発作的にツンデレだったり、遺伝的にツインテールだったりするライトノベルヒロインに比べて格段に筋の通ったキャラだと言えよう。

 つまり人間を発狂させる外宇宙からの旧支配者たちは、「整理整頓」とか書かれたTシャツ着て秋葉原観光しちゃう外人たちと大差無かったのだ! と、こういった「エンヤの曲は歌詞を訳すと、実は親子丼の作り方を説明してるだけ」みたいな幻想的なものに陳腐な意味付けをしちゃうやり方が物凄く好きな人には是非ともオススメしたい一冊、だけれども、ライトノベルを買い慣れてない人たちにとってはやや買いにくい表紙かもしれないので、そういう人はレジで元気よく「這いよれ! ニャル子さんの一巻をください!」と言うといいだろう。「這いよれ!」の部分だけ数人でハモれれば尚良しだ。

 

 

這いよれ! ニャル子さん (GA文庫)