フリーライターの北川祐子さんによる、月1連載。
毎月10日更新。
毎回ひとつの漢字から思考をめぐらし、
あれこれと綴っていただきます。
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その一字を選んだ理由も一緒に添えていただけると嬉しいです。
読み:【音】ドウ 【訓】うご(かす)、うご(く)
成り立ち:「重(地面に人の重さがかかること)」と「力」を組み合わせた字。もとは、足で地面を“とん”とつく動作、“とんとん”と上下に動くことを表したが、後に広くうごくという意味を表すようになった。
意味:うごく。強く心に感じる。生き物。
「人の心を動かす○○」というタイトルのビジネス本、就活ノウハウ本が驚くほどたくさん出ています。喋り方だとか、表情だとか、そういう類の本も確かに一理あるのかもしれませんが、基本的には「共感」と「負い目」が人を動かす最も大きな要素だろうと思っています。
かの有名な松下幸之助氏の著書はいずれもベストセラーで、今なお経営者と呼ばれる人たちの多くはそれを心のバイブルとしています。何度も繰り返して読み、心酔する大人を見て、「まだまだ自分には難しい」と敬遠していましたが、社会人になっていざ手に取ってみるとどれも当たり前のことばかり。ここ最近いきなり火の点いたドラッカーの著書に書かれていることも、やはり同じようにごく当たり前のことです。
社会人になり10年を経ようとする今、松下幸之助氏の言葉を読んで、以前はなかった感動を覚えるようになりました。当たり前のことを当たり前に、分かりやすく表現できることに対する感動と、自分と同じ感情をあれだけ偉大な経営者も持っていたのだという発見。自分の中に少なからず経験という積み重ねがあってこそ生まれるもの、それが「共感」です。ドラッカー理論は若い人には「新鮮な定義」として映ったようですが、これもやはり管理職などを経験した人は共感をもって読んだことでしょう。
では、「負い目」とは何か? 弱みと言い換えても良いでしょうか。自分が欠点だと思っているところを「治るよ」と言われたり、欲しいと思っているものをチラつかされたりしたときの、バツの悪い、でも言うことを聞いたほうが良いようなあのむずむずした感じ。心理的な弱みを逆転できる、これをやればうまくいく、と思わせるものは、すべて「負い目」に付け込んだものでしょう。
宗教もそう、振り込め詐欺もそう、「あなたにもできる!片付け必勝法」のような本もそうです。宗教に関しては賛否あると思いますが、基本的に人は幸福であると思っているときには自立できても、不幸であると思い込んだ瞬間頼るべき絶対の存在を探すものです。宗教とは本来自らが無になっても分け与えるもの、一手に集めるものではありません。課金した時点で、それはやはり弱さに“付け込んだ”という言葉が正しいはずです。
人の心を動かすことは簡単ではありません。でも、もし動かさなければならないのであれば、その人を観察し、バックボーンを深く読むことが“必勝法”でしょう。誠実であろうとするなら、「共感」を呼べるだけの熱意と失敗を、自分の中に培う必要がありそうです。
