16

1月

2010

私と八百屋

 

 冷蔵庫が小さくて困っている。もっと広い野菜室が欲しい。もっと茄子を、私にもっと茄子を。

 などなど、みんなの冷蔵庫に関する欲望 は尽きないと思いますが、今日はそんな悩みびとたちにアドバイスと言いますかヒントになるようなことをお話できればなと先生は考えています。あと今先生の ことを「きもい」って言った澤田さんはあとで職員室に来なさい。やっぱ保健室に来なさい。ベッドを囲ってる白いカーテンの内側に来なさい。5時半には保健 の吉永先生が帰るのでそれを見計らってきなさい。なんか、こう、いろいろしましょう。

 

 あの、今住んでるとこの近所に『お店』っていうよりは『難民キャンプ』とか『防空壕』に近いたたずまいの八百屋がありまして。とりあえず掃除したらどうかな、と初対面から言いたくなる店構えなんですが、努力はしてるみたいなんですよ。

 特売の日とかね、お客さんへのアピールがすごいですから。その店がある路地の入り口に立ってる電信柱に、油性マジックで『特売』って書かれたダンボールの切れ端みたいのが貼られますから。

 もちろん、商品ひとつひとつへのアピールも忘れてません。先週通ったときには、りんごが入った箱にもはや見慣れたお手製のダンボールPOPが付けられてて、『みつ入り』って大きく油性マジックで書いてありました。

 うん。言いたいことはわかります。わかりますが、『みつ入り』はとりあえず違うと思います。りんごになんか、なにかしらの蜜を注射器で注入してる絵しか浮かびません。

 その八百屋の近所に引っ越してきてかれこれ5年近く、冗談ではなく真剣に、そこで買い物してるひとを見たことがないことに気付きました。私も最初の頃は「大丈夫なのかこの店」と不安に思ったものですが、最近はこう思います。

 もしかして店じゃないんじゃないのか。

 買いすぎて冷蔵庫に入りきらなくなったたくさんの野菜を家の前に収納してる、すごく野菜が好きなひとなんじゃないのか。

 いつもいるおばさんは店番をしてるんじゃなくて大好きな野菜をただ眺めてるんじゃないのか。

「私と野菜がいる。私しかいないって考えるよりはすこしは前向きなんじゃないかなって思うんですよね最近」

 ロッキングオンの一万字インタビューでもそう語ったんじゃないのか。

 3万人を集め、

 

 はい。話の途中ですが、チャイムが鳴ったので今日はおしまいです。次は八百屋のおばさんの全国単独ツアーが始まるまでのいきさつを勉強していきたいと思います。来週の火曜までに「私と八百屋」というタイトルの小論文を八百字以内で書いてきてください。宿題です。

 あと、さっき話の途中で先生のことを「あのじゃがいも野郎」って言った高橋さんは、白菜を使った恥ずかしい写真を宿題の小論文と一緒に提出してください。ゼムクリップでとめて提出してください。よろしくお願いします。